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あきる野の保育所

Nursery in Akiruno City

あきる野の保育所

2017 / Category: educational, interior

■企業主導型保育所とは
本保育所は、平成28年度より内閣府が進めている「企業主導型保育事業」にもとづいて設置される保育所、つまり「一般企業がつくる」保育所である。認可外保育施設とはなるものの、国から認可保育所並みの運営費・整備費の助成がされ、現在の待機児童対策の切り札として今後の展開が期待されている。
駅近くに立地しやすい自治体主導の場合とは異なり、従業員の住まいや事業所の位置から立地が選定されるため、今回のケースのように郊外特有のロードサイドなど従来の認可保育所が設置されにくい場所が対象地となることがある。地域の子供の受入れ(利用定員の50%以内)が可能なため、各地域の多様な世帯をフォローする可能性を持っている。
施主である物流会社は、労働力のかなりの部分をパートタイムの主婦の方に頼っているため、専業主婦となっている潜在的労働力の掘り起こしも期待できるだろう。また、今後は複数企業の共同設置も視野に入れながら複数拠点への展開を考えており、本保育所も含め、待機児童問題の解消に少なからず貢献していくのではないだろうか。
■用途変更/既存不適格調書/バリアフリー条例緩和認定申請
計画は、鉄骨造3階建ての共同住宅の1階、道路に面する「店舗」部分約140㎡を改修し、「保育所」に用途変更するものである。ただ、もともとの「店舗」部分は、実際は平成5年の竣工以降テナントが入らず、壁は無断熱で構造剥き出し、床は砂利敷きのまま土間打ちもなされていないスケルトンの状況であった。
既存建物は設計図と確認済証は存在したものの検査済証がなかった。既存建物の安全性を担保するため、法12条5項に規定による報告(既存不適格調書の作成)を行った。建物が計画どおり、適法に施工されていることの確認のみならず、鉄骨の超音波探傷検査や簡易コンクリート強度調査など品質の確認なども行った。この報告を添付資料として用途変更申請をし、確認済証を得ることができた。
また、「保育所」への用途変更は規模にかかわらずバリアフリー条例への遡及が必須となり、既存建物の一部を「保育所」として計画する際の障壁となっていることが多い。例えば今回のケースでも、既存配管への接続高さから1階フロアレベルをミニマムに抑えたとしても出入り口付近に相当な長さのスロープを設置する必要が出てくるなど、利用の実情と異なるオーバースペックな計画となることが懸念された。こういう状況を鑑み、「保育所、認定こども園及び地域型保育を迅速に確保するための措置」として、平成28年6月にバリアフリー条例の「状況を鑑みた合理的な運用のお願い」が国交省より交付され、状況に応じてバリアフリー適用を積極的に免除する方針が示された。そこで本計画でも、床の段差や身障者用トイレの設置の免除など、バリアフリー条例の緩和認定申請をし、認定を受けることで、利用実態に基づいた設計内容で用途変更申請を行うことができた。
■平面計画について
建物に付属した園庭がない(近所の代用公園を利用)ため、長時間室内で過ごす子どもたちにとって、学びや食べる空間としてだけでなく、自由に走りまわれる「広場」のような保育室となることを目指した。管理のしやすいワンルームの保育スペースを基本として複数案を検討(添付スタディ模型資料)し、最終的に保育スペースを囲むように水回りや諸室をコの字型に配置した、最もシンプルな平面計画ととなった。
■天井と床・壁
断面的には複雑な構成の計画とした。既存鉄骨の梁型や上階からの配管、新たに設置する空調機などを隠蔽するように天井面の凹凸を構成した。一方、間仕切壁はフローリングの床から平面計画のまま立ち上がるため、上部の天井面との間にズレが生じる。壁が途中で止まりロフトスペースや欄間となったり、同じ部屋の中に天井高の違う場所を生み出した。
フロアレベルにあらわれる園児たちの活動を想像しながら、この天井面と壁面のせめぎあいの調整をし、そのせめぎあった結果そのものが表れるような設計とした。結果、平面図からだけではわからない、多様で自由な空間が生まれたのではないかと考えている。

主要用途: 店舗から保育所への用途変更
規模: 138.40㎡
住所: 東京都あきる野市牛沼
設計担当:雨宮知彦、細谷悠太
共同設計者:照内創/SO&CO.
電気設備設計者:櫻井由子/HEZERAF.LLC
機械設備設計者:小熊咲登子/HEZERAF.LLC
写真家:若林勇人

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2017 / Category: educational, interior

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