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会誌「建築士」寄稿 2022年4月号

Friday, November 18, 2022|news

会誌「建築士」シリーズ連載「オピニオン」への寄稿を掲載します。

2022年4月号
『建築士のいない街』

2011年から、コロナ渦で渡航が難しくなった2020年まで、ジャカルタのカンポン(所謂スラムと呼ばれるような高密度居住地区)をフィールドとした建築実践活動に携わってきた。その動機は、超高密状態に起因する劣悪な居住環境の改善に向けて粘り強く関わり続けてきた、というのは勿論だが、街の鮮烈な魅力にただただ取りつかれてしまったというのが実のところだ。
カンポンを歩くと、どこからどこまでが一つの住居なのか、分かりづらい。物的環境のほとんどが手に入りやすい建材を一般的な構法で無理なく組み合わせて作られており、結果的に似たような雰囲気の建物が連続していく。建物をつくるのは、セルフビルドか、せいぜい近隣の大工さんであり、町内会の慣習やお隣さんとの関係性などからカタチが調整され、定着している。土地所有が曖昧なインフォーマル居住地であり、敷地を超えて架空で建物が連続したりする。それは、法的な規制が最低限の大枠を決定し、その上で排他的土地所有権に基づき敷地内の「自由」が最大限尊重され百花繚乱の建物がつくられる近代都市とは真逆の世界である。建築のカタチと街のカタチをもたらす仕組みが連続的であり、建築と街、あるいは所有と共有の線引きが曖昧なせいか、いたるところで住民たちが地べたに座って語らい、老若男女だれもが「そこにいていい」雰囲気がある。このように部材から街並みに至るカタチとアクティビティが地続きに連関する街の姿が、設計者としての私を惹きつけてやまない。
他方、私たちは、現代資本主義社会がもたらす自由の枠組みの中で、差異を作るゲームに参加せざるを得ない現実がある。そこで鮮やかに価値を生むことにも意義があるし、東京に代表されるような、その集積としての街もまた、時代や社会のある種即物的な表れとして肯定されうる。このような複層的な世界において、建築士のいないカンポンの世界は、自由の功罪や自身の職能を俯瞰する視点を与えてくれているだろう。二項対立的にどちらかの世界を選択するのではなく、その両極を往復し、悩みながら、建築や街のつくりかた/つくられかたを考え続けていきたいと考えている。