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会誌「建築士」寄稿 2022年5月号

Friday, November 18, 2022|news

会誌「建築士」シリーズ連載「オピニオン」への寄稿を掲載します。

2022年5月号
『トレーディング・シティ』

わらしべ長者という私の好きなおとぎ話がある。とある貧乏人が、持っていた「藁しべ」を道すがら出会う人々と物々交換していった結果、最終的に大屋敷を手に入れ金持ちになるという話である。そのサクセスストーリーの痛快さもさることながら、私が興味を引かれるのは、主人公が物々交換をした相手方5人が皆それぞれに満足しているという点である。主人公は相手方のオファーを受動的に了承するのみであり、金額的には損をするような交換をのっぴきならない理由により切望するのは、常に相手方なのである。すなわち、モノとヒトのあいだの「最適」マッチングが、万人共通の価値基準(=貨幣価値)による測定を介さずに行われている。ここに、物々交換の面白さがある。地上のあらゆるものが商品化され、貨幣価値で測られる現代であっても、モノ固有の使用価値やヒトに拠る「最適さ」の違いを切り捨てない、物々交換のようなやり取りが可能なのか、考えさせられてしまう。
このような思考を、都市や建築に応用できないかと考え、仲間有志とトレーディング・シティ研究会を運営している。現代都市においては、モノだけでなく空間もまた商品化され、貨幣価値に基づいた開発による都市風景の平準化に歯止めが効かない。優勝劣敗が分かりやすく、どこかの開発が別のどこかの衰退を呼び起こす。そこで研究会では、異なる複数地点の開発や改変を、各々の「最適」で「満足する」トレード(交換)によって起こせないか、検討している。つまり「最適さ」の差異を原動力として空間を動かそうというのがトレーディング・シティのアイデアである。
価値観が違う者同士で起こるのがトレードであるから、人々の「空間」に対する価値観の大きな変化をもたらしつつあるコロナの流行は、トレードによる空間再編の契機となるかもしれない。もちろん、場所に定着する空間や建築はモノのように簡単には動かせないから、このアイデアを既存制度や不動産の仕組みにうまく滑り込ませて実装する道筋を検討している。紙幅のため導入のみの紹介となったが、興味のある方は研究会HP等を覗き、議論に加わって頂ければと思う。